通勤ワンダーランド・1

最近通勤をしている。

当たり前だと思われるだろうが、私にとって当たり前ではなくなっていた事だった。

理由は二年半の引きこもり生活-在宅ワークとも世間では呼ばれている-を終え、外にオフィスを借りることになったのである。オフィスを借りると言うとさもすごいことの様に思えるが、何のことはない、デスクを一台と多少のパーソナルスペースを確保できる場所を見つけただけの事だ。

たいして広くない家でずっと仕事をする。

コロナという言葉が流行り出してから、自宅作業を強いられた多くの人々は早々にSOSを出していた記憶がある。私が鈍感なのか我慢強いのか、はたまた頭が鈍いのか、それはあまり苦にならなかったのだが、あまりにも長く続けすぎた結果、それはやってきた。

「これ以上家にいたくない」

そう強く思った。その思いがまさに天から降ってきたのである。

ムハンマドが大天使ガブリエルから預言を授けられた時もこんな感じだったのかもしれない。それまでも一日中家にいないように心掛け、毎朝近所を歩き回っていたのだが、散歩を終え自宅に戻る道中が徐々に辛くなっていった。

ありきたりな住宅街のありきたりな道。

よその地域に比べ多少自然があるし、小道の分岐が多かったりで歩行ルートは比較的多彩に取れるのだが、毎日毎日同じ風景を見続けることには変わりない。

避けられない事がある。それは散歩の終わりには確実に自宅に向かって歩みを進めなければならないという事だった。

そう確実に家に帰らなければいけない。
外に出たら絶対に元の場所、つまり家に戻らなければいけない。
これを何百回と繰り返していたわけである。

その事にほとほと嫌気がさしたのだろう。自宅帰還恐怖症とう病気があるのなら、確実にその病に陥っていたと思う。しかも完全に末期症状であった気がする。

私は家から脱出する。少なくとも日中の間は。
そうミッションは決まった。

しかしそこには乗り越えなければいけない壁が一つあった。

どんな場所で働くか、という事である。元来様々な事が気になってしまう性格である。2年半ぶりに通勤をする、という事に対して非常に身構え、場所をどこにするのか、という事は簡単に決められるものではなかった。

街も重要であり、あまり遠くない方が良い、そして何より働きやすい環境であるかどうか、それが最重要だと自覚していた。しかしいきなり単独オフィスを借りるのは荷が重い。
となると答えは一つ、コワーキングスペースである。

東京中のコワーキングスペースを調べまくった。そしてビビった。
その数があまりにも多いのである。いつの間にこんなに増えたのか、というくらい。
心の中で関西弁で突っ込んでしまったくらいだ。

吉祥寺でも10か所以上ある。東小金井ですら3つもある。都心エリアに至っては500箇所以上ある。

これは・・・どこにすればいいのか。
せっかく外に出る気になったのに、その場所が簡単に決まらない。

もちろんあまりこだわらずにすぐに決めてしまう人もいるだろう。
しかし私はそうではない。非常に面倒な性格だと自覚はしている。

これは内覧に行きまくるしかない・・・そう決意した。そして先に言っておくがこのコーワキングをめぐる冒険は中々面白かった。

続く

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